2020年9月24日に、一般社団法人日本能率協会が、「DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組み状況」を公表しました。調査結果の主なポイントは、以下の通りです。
①5割超の企業がDXの推進・検討に着手済み。大企業では8割超。
②DX担当役員・担当部署を設けている企業は4割。大企業では6割近く。
③DX推進の目的として重視すること「業務プロセスの効率化」が8割、「事業開発」「顧客開拓」「事業構造の変革」を重視する比率はやや低めに。
④DX推進における課題、8割超の企業が「人材不足」を挙げる。
「ビジョンや戦略、ロードマップの不明確さ」「具体的な事業への展開」にも課題
多くの中小企業がDXに関心を持っているものの、実際にDXを推進したり検討に着手したりしている企業は34.9%と大企業と比較して少なく、企業規模によって大きなばらつきがあります。
中小企業でDXが進まない要因は様々あるものの、実際のコンサル場面でよく遭遇するケースについてご紹介します。
①経営層の意識、不透明なビジョン、手段の目的化
DXという言葉が盛んに叫ばれる一方で、コンサルの場面では違和感を覚えることが少なくありません。それは経営者の「DXがしたいんだ!」「DXに取り組んでいる企業になりたいんだ!」「DXが必要って言われているから何かITでしなきゃね!」といった言葉(マインド)です。つまり、DXが目的となっており、DXで実現すべき本当の目的=あるべき姿・ビジョンといったものが、全く見えないのです。
本当に“デジタル”で“革新”するのであれば、自社のビジネスモデルをガラッと変える、組織風土・企業文化も根こそぎ変わる、従業員はもちろん、経営者自身のマインドも根底から見直す、そんな覚悟が必要なのです。あくまでも、DXは手段でしかありません、極論、デジタル化したところで収益性に寄与せず、従業員の働き方や付加価値に変化が無いのであれば、全く取り組む必要はないのです。もう一段目線を上げて、「自分たちの会社をどうしていきたいのか」目的を考えたうえで、その手段の一つとしてDXを考えることが必要不可欠です。
②実務者の抵抗
人間は変化を嫌う生き物です。基本的に、「昨日と同じ今日」を過ごしたいと考えている人が多いのではないでしょうか。DXに取り組むということが決まると、一般的に従業員の方々は賛同します。というか、むしろ喜びます。「手作業がなくなって業務効率化する。」「見たいデータが簡単にみられるようになる。」「いよいよ我が社もIT化が進むのか!」・・・ レベル感は様々ですが、概ね好意的に受け入れられます。しかし、実際に自分自身の業務を変える必要が出てきた途端に、「抵抗勢力」に様変わりします。
よく遭遇するのは、「(自分のせいではなく、誰かのために)今のやり方を変えることはできない!」人達です。「自分のせいではなく誰かのために」というのがポイントで、顧客や仕入先・外注先といった外部関係者はもちろん、自社内の他部署・他部門(の誰か)を“気遣って”、変えられないと言うのです。あくまでも自分自身のせいではありません。よくあるのは、「自社の取引先の多くは年配の人が多いからPCに疎い、今まで通り紙とfaxがいいと言って反対される・・・」みたいな話ですね。
会社内外の関係者と対立したくない、説明するのは面倒だ、という気持ちはよくわかります。しかし、よくよく考えてみると、業務プロセスをデジタル化したからといって、取引自体がなくなることは稀でしょう。むしろ、デジタル化を待ち望んでいる顧客あるいはまだ出会っていない顧客候補がいる可能性の方が高いと言えます。一過性の(自分にとっての)不利益にばかり着目するのではなく、継続的に得られるであろう(自社にとっての)利益に目を向ける必要があります。
③“現場改善”の意識
日本企業、特に製造業では、改善・改良を得意としている企業が多く存在します。それはそれでいいのですが、DXに取り組む際に、単に業務プロセスの改善・改良を念頭に置いた発言が多くみられるという事実もあります。つまり、既存の業務プロセスを維持したままに、その(実務者の作業を)効率化をするためにデジタル化を進めるというイメージです。具体的にはこんな発言が出たりします。「この作業は変えられません。今回のシステム導入は、効率化のためですよね?現場の効率を考えると今のやり方を変えることで効率が大幅に下がってしまいます・・・。」
こういった場面は、経営層のトップダウンでDXに取り組むことが決定したものの、現場実務についてはよくわからないので、システムの具体的内容については現場実務者がフロントに立つ、といったケースでよく見られます。実務をわかっている人に権限を持たせることは、プロジェクトの柔軟性や機敏性の面、何より現場の意図を汲めるため立ち上がりやすいというメリットがあります。ただ、それはあくまでも「DXの目的・意義・目指すところ」に沿った上での話というのが前提になります。この「DXの目的・意義・目指すところ」が担当者に正しく伝わっていない場合、経営層が考える目的とは真逆の判断、つまり全体最適ではなく部門最適(下手すると個人最適)に陥ってしまう可能性があります。
最後に
「DXスルゾ!」って言っている経営者の方、3年前は「これからはAIダ!」って言っていませんでしたか?その前は、「IoTでビッグデータ!」みたいなこと言っていませんでしたか? 別にAIでもIoTでもクラウドでも、VRでもARでもいいんですが、あくまでもこれら全て“手段”なんです。考えるべきことは、この時代に対応したビジネスモデルを作り上げる(変革する)こと、組織の在り方を変えていくことです。数年後には、“DX”という言葉自体なくなり、また新しいバズワードが出てくると思いますが、粛々としっかりと確実に“DX”に取り組んでいくことが重要です(笑)