ある社内会議で、社員旅行──いわゆる慰安旅行や研修旅行についての意見交換が行われました。
すると若手社員たちからは、ためらいのない本音が次々と飛び出しました。
「正直、あまり行きたくないんです」
「そんなことにお金を使うくらいなら、給料を増やしてほしい」
「会社命令なら、現地で使うお金についても全て会社で補填してほしい」
「パスポートの取得費用や、取得にかかる時間についても会社で持ってほしい」
「こんな行事が続くなら、身の振り方を考えます」
「会社の人といるくらいなら、家族との時間を大切にしたい」
これを聞いた経営陣の反応は、少々複雑なものでした。
「やっぱり最近の若者は…」
「我々とは時代が違うな」
「価値観が変わってきてるんだな」と、どこかがっかりしたような空気も漂っていました。
しかし私は、そのリアクションにこそ、一見ネガティブに見えて実は前向きな兆しが表れていると感じました。
社員が本音を語り、それを経営陣が戸惑いながらも受け止めているという状況は、むしろ組織が健全に変化している証なのかもしれません。
というのも、こうした“ネガティブな本音”を率直に言えるというのは、組織の風通しが良い証であると同時に、若年層の採用がうまくいっていて、しかも彼らが長く在籍しているからこそ出てくるものでもあるからです。
採用難が続く時代において、若手人材が入社し、一定年数しっかり定着している。
それゆえに、余計な気遣いなく本音を言える環境がある。
これは、数字では測りづらいけれど、実はとても価値のある企業力のひとつです。
もし逆に、
「ゴルフ最高!」
「温泉でリフレッシュしたい!」
「夜は宴会で盛り上がりたい!」
「バスの中でレクリエーションやりましょう!」
といった“予定調和”的な反応ばかりだったとしたら、それはそれで組織の硬直化を疑うべきかもしれません。
その裏には、本音を言いにくい雰囲気や、年齢構成の高齢化といった構造的な問題が潜んでいることもあります。
私がこのやりとりを見聞きしたのは、愛知県のある建築資材の専門商社でのことでした。創業から70年を超える中堅企業で、いわゆる「問屋業」に分類される会社です。
この会社のユニークな点は、伝統的な問屋の枠にとどまらず、SNS発信やSDGsへの取り組み、さらにはAIツールの活用などにも積極的に挑戦していることです。とくにinstagramでの情報発信は「問屋らしくない」として若手人材や取引先の関心を集めており、採用にも良い影響を与えています。
最近では、社内で作成した販促資料やAIの活用事例を顧客にも提供してはどうか、という声も出ています。
もはや建築資材問屋の枠を超えています(笑
社内の“ちょっとした工夫”や“前向きな取り組み”が、企業ブランドを形成する素材になり得るという意識が芽生えてきていることを感じます。
いま求められているのは、「何をしているか」だけではなく、「どう見えているか」にも意識を向けること。採用、取引、発信、あらゆる場面で、外からの“見え方”が大きな意味を持つ時代です。
業績の良し悪しにかかわらず、“いまの組織をどう育てていくか”“次の一手をどう描くか”は、すべての企業に共通する課題です。
だからこそ、「うちって外からどう見えているんだろう?」「社員の声、特に世代の違う声をどう活かしていけるだろう?」と問い直すことが、これからの変化に強い組織づくりのヒントになるはずです。