変化のスピードが目まぐるしい今の時代、企業活動において「これまでの強み」だけではメシが食えなくなりつつあります。
特に技術力を売りにしてきた中小製造業はその傾向が強いようです。
愛知県岡崎市にある社員30名の金属加工メーカーもそうでした。
当社はその加工技術の高さゆえに、顧客からの仕事が尽きません。
強みは正確な寸法仕上げ、納期遵守、技術提案力などです。
営業担当の仕事は主に顧客からの受注を製造部に伝えること、あとは納品ついでに次の受注を期待しながらの営業活動です。
価格交渉もあまりなく顧客から提示されたものを受け入れるだけで十分でした。
しかしある年の決算内容が社長の顔を曇らせます。
早速幹部会議の開始となりますが、業績不振の決定的な原因が掴めません。
小ロット?単価ダウン?原材料アップ?在庫過多?光熱費?人件費?生産性?そこで知り合いの中小企業診断士に分析を依頼したところ、すべてが少しずつ連動して業績ダウンのスパイラルにハマっているとの事です。
そこでさらなる社内会議を経て出た結論が「生産性を高め利益率を確保しながら新規顧客を獲得する!」という掛け声先行の内容でした。
素晴らしい戦略ですが果たして本当に実現するのでしょうか?
半年後。
「あれね。忙しくて全然やれていない!」
「何から始めればいいのか分からない」
「月1回の会議も参加者が減りここ3か月は開催されていない」という始末です。
結局は具体的方針もなく責任者不在のまま掛け声だけで終わり。
フェードアウト企画になってしまいました。
このような話はよくあります。
ではこの企業の問題点はいったい何でしょうか?それは長年下請け体質に浸り続け、マーケティング思考が全く備わっていない点です。
そこで社長が再度、幹部を集めます。今度はマーケティングの専門家を迎え、販売促進会議を立ち上げ、一からマーケティングの観点を勉強することとなりました。
では当社のような中小製造業のマーケティング戦略とはいかなるものでしょうか?
日本人マーケターとして丸亀製麺やユニバーサルスタジオの業績回復の実績がある(株)刀の森岡毅社長によるとマーケティング手法は簡単な取組みの積み重ねであり地道な活動とのことです。
彼のマーケティング思考のスタートは「消費者視点」です。
製造業に当てはめた場合は「顧客視点」と読み替えます。
顧客が何に興味を示し購入するのかという分析が大切です。
地味な活動ですが顧客視点で製品やサービス品質、納期、付加価値、などを考える担当が実はマーケティング担当職であり「顧客理解の専門家」となります。
しかし実際は「顧客視点」には向かいません。
なぜなら部署間での利害が一致しない点があり、さらに日本の多くの製造業がこれまでの成功パターンである「技術志向」に陥っているためです。
良い製品を早く安く作る技術はすでに備わっていますが、いかにターゲット顧客を納得させ「こちらの意向どおりに買いたいと思わせるかという技術」についての研究がなされてきませんでした。
マーケティングの起源は1900年ごろアメリカのフォード社(T型フォード)の大量生産活動とされています。
市場調査を行い、チャネルを決め、大々的なプロモーションにて大成功を成し遂げました。
そこから世界に広がりその手法もどんどん進化しています。
それが進化し、今ではマーケティングに必要な顧客行動分析や販促ツールの判断にAIも加わり世界市場を制したグローバル企業も出現しています。
ですので、今から未来に向けて研究しても全然遅くはありません。
今回の金属加工メーカーのようにマーケティング専門家とともに販売促進会議を開始できる例はとても少ないのが現実です。
なぜなら技術専門家に比べマーケティング専門家が圧倒的に少ないからです。
それが弱みでありチャンスでもあります。
製造機械・装置の発展により技術レベルが世界中で均衡している現代、日本の製造業が再度世界へ抜け出す技術は何でしょうか?
それは「製造業版マーケティング技術」だと私は確信しています。
と言うのも日々このような難題に遭遇しており、会社ごとに最適なマーケティング技術が必要であることを痛感しているからです。
中小企業診断士のどなたか「製造業版マーケティング技術コンサルタント」を目指してほしいものです。ニーズはブルーオーシャンほどありますよ。