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問いの深さが、クリエイティブの未来を決める投稿日 | 2025.6.30

問いの深さが、クリエイティブの未来を決める

~生成AIと人間の“共演”が生む、新しい表現のカタチ~

 

 

東京で活動するある写真家から、印象的な話を聞いた。

かつてのカメラマンたちは、40代を過ぎると第一線から徐々に退いていったという。

理由は「老眼」。目が衰えることでピントが甘くなり、撮影の精度に影響が出る。

どれだけ経験豊富でも、そればかりは避けられなかった。

ところが、オートフォーカスなどの機材進化が、その常識を変えた。

身体の衰えを補う技術が、プロとしての寿命を延ばしたのだ。

引退のタイミングが“老眼”で決まっていた時代は終わり、熟練者は技術を支えに、

さらに深い作品を撮ることができるようになった。

この話を聞いて、ふと思った。

これは、今私たちが直面している生成AIとの関係と、どこか似ているのではないか、と。

 

■ AI時代に求められる、“問い”という力

生成AIの普及によって、誰もが高精度な文章や画像を瞬時に生み出せる時代になった。

私たちクリエイターは、“情報のつくり手”としてかつてない恩恵を受ける一方で、その急速な進化に、戸惑いやジレンマを抱えているのも事実だ。

なぜなら、生成AIの提案力・制作スピード・情報処理能力は、すでに多くの場面で人間の能力を凌駕しつつあり、

「人間の創造性とは何か?」が、あらためて問い直されているからだ。

だが、忘れてはならないのは、AIが導き出す“答え”は、あくまで私たちが「どんな問いを投げかけるか」によって決まる、ということだ。

ここに、これからのクリエイティブの本質がある。

生成AIは、誰にとっても“公平で強力なツール”だ。

仮に[AI]×[人間]=最適解という構図が成り立つのだとすれば、その「解」の質を左右するのは、私たち人間がどれだけ本質を問えるかにかかっている。

同じ性能のカメラでも、撮る人の感性によって写真の印象はまったく異なる。

それと同じように、生成AIのアウトプットも、問いかける人の“視点”や“経験”、“想い”によって大きく変わってくる。

もちろん、AIを時短や効率化の道具として使うことにも、十分な価値がある。

だが、それだけにとどめていては、AIが持つ本来の創造性は引き出せない。

むしろ、“本質を問う言葉”を投げかけたとき、私たちはきっと、AIが導き出す想像もしなかったような、新しい答えに出会えるはずだ。

 

 

■ 問われているのは、“使い手”である私たち

OpenAI の「ChatGPT」、最新モデル「o3」のI Qテストは、平均で136ポイントという記録を出している。

東大レベルの頭脳を、誰もが手軽に使える時代がやってきたのだ。

近い未来、広告やクリエイティブの世界は、AIが製造する莫大なコンテンツで埋め尽くされることは、容易に想像がつく。何十倍にも膨れ上がったWebやSNSの情報を前にして、私たちはどんな方法で、コンテンツの取捨選択していくことになるのだろうか。

これはあくまで私個人の考えだが、最終的に人の心を動かすのは、送り手の「個性」にある思う。

オートフォーカスでピントを補ってもらえるようになったカメラマンが、その分「何を撮るか」に集中できるようになったように、伝える側の「個性」を最大限に引き出す“手段”として、AIは最高のパートナーになりつつある。

AIに使われるのではなく、AIと共作し、どんな新しいものを創造するか──

それこそが、これからのクリエイターに求められる、大切な資質だと言えるだろう。

 

 

■ AIと“共作”する時代の、クリエイターの役割

今や誰もが、iPhoneのカメラで映画館レベルの美しい動画を撮れるようになった。

けれど、「人の心を動かす動画」を誰もが作れるかどうかは、また別の話だ。

それは、技術の問題ではなく、そこに込められた意図や熱量の問題である。

同じように、生成AIを誰もが使える今の時代にこそ、「どんな問いを立てるか」「どんな本質に近づこうとするのか」が、これまで以上に問われている。

AIと人間は、対立する存在ではなく、それぞれが得意な領域を補い合う“共作者”になれる。

そして、その共作を通じて、これまでにない表現のカタチが生まれていくのだろう。

AIは、使う人の想いに応えようと、静かに待っている。

あなたが本気で問いかける、その瞬間を。

そして、その問いに込められた中に、「あなた自身の言葉はあるのか」どうかを。

その問いが本気であればあるほど、AIはきっと、

あなた自身もまだ知らない“新しい個性”を映し出してくれるだろう。

 

 

コピーライター 天野僚平(筆者のプロフィールはコチラ)

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