「不動産を処分したいが、相談を受けてもらえないか?」
そんな相談が増えてきた。
電話口で事情を聞くと、50年以上も前に農地を相続したものの、その手入れ、面倒が実に大変。大変というのは、相談者は遠方(中国地方)に在住しており、そもそも農業のノウハウを持ち合わせていない。
相談者の年齢は80歳、妻と娘二人の計四人の家族構成だが、二人の娘は嫁いでおり、彼女たちの居住地も中国地方である。相談者の苦労する姿を見ているだけに、妻や娘たちからは、愛知県内にある農地を相続が発生する前に何とか処分してもらいたいと言われている。
当事務所でも、相続事件の取扱い件数は、右肩上がりに増えている。以前では考えられない冒頭のような発言が、多くのクライアントから発せられるようになった。つまり「不動産は要らない」である。
「社会問題化する所有者不明不動産」
空家問題が日本各地で発生している。
ある県では、分譲マンションが倒壊寸前にも拘わらず、所有者不明のため対応策を講じることが出来ない。地域は過疎地域に限定されず、都心部やその周辺の住宅地にも及び、日本各地へ波紋を広げている。
農地に関しては、境界がわからないほど草木に覆われ、一方では何処に存在するのかも不明という場合もある。
つまり書面(登記)上存在するに過ぎない。
これらは、所謂「所有者不明不動産」として、数年前から注目されてきた。
空家や更地のまま放置して、時に火災や犯罪の住処等の温床になりかねず、ニュースでもその実態が社会問題として取り上げられている。
「相続土地国家帰属制度を選択すべきか」
そこで、国は「相続土地国家帰属制度」を創設、本年4月27日からスタートしている。
名称がなかなかイケてる。「帰属」だから本当は土地は国家のものなんだという考えが透けて見えるのだ。
この制度のポイントは、以下のように言われている。
ポイント1.相続又は相続人への遺贈により手に入れた土地について、所有者の申請により、承認された場合は、土地を国に引き渡すことができる。
ポイント2.制度の利用には、審査手数料及び負担金の納付が必要。
ポイント3.国が引き取ることができる土地について、一定の要件がある。
ポイント4.申請先は、土地の所在する法務局の本局。
この中の3.に着目すると、金銭を払ってでも土地を手放したいという換言できる。
本制度を利用する場合、以下の手続きの流れを経る必要がある。
1.事前相談
2.申請書の作成、提出
3.要件審査
4.承認、負担金の納付
5.国庫帰属(完了)
確かに、国へ帰属させることで相談者の負担軽減、問題解決へつながるが、相談者へは改めて以下のアドバイス、所有不動産について当てはまる悩みは何か?悩みの類型化と整理を行ったのである。
1.売却が可能か確認したい
2.相続させる(する)のが不安
3.引き取ってほしい
4.最適な処分方法を知りたい
この中で1.に着目すると、特に農地の場合買い手を選ぶ土地が存在するのも事実。例えば、市街化調整区域内の農地の売却は、全ての人が購入できるわけではない。そのような農地を売却する場合、有資格者しか購入することができないからである。農地法等の専門知識がない限り、売却は出来ないと思いがちであるし、現に相談者もそう考えていた。
また、多くの不動産業者や、当職のような専門家でも、事前調査を実施している。
1.売却可能性について、専門家による査定を第三者目線で実施
2.相続時のリスク、負担金の算出
3.相続土地国庫帰属制度、自治体への寄付対象となる不動産かを調査
4.万が一、不動産の処分が困難な場合、調査会社が引取り先を紹介
本当に手放すべきか、またその手段や方法は、悩みを類型化しその解決のために要する時間を区切り、対応することをお勧めしたい。
参考HP 法務省「相続土地国家帰属制度について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00454.html