「佐原さん・・・私が継ぐ会社には、将来性やチャンスはあるのでしょうか?・・・」
そのようなボヤきにも似た後継者の声を時々耳にすることがある。
こうした悩みを持つ後継者たちにもう少し詳しく話を伺うと、つぎのような声が聞こえてくる。
「親から引き継いだ会社を、なんとか傾けないように維持していくだけで精一杯で・・・」
「古くからの従業員たちの考え方が前時代的で、なかなか今の新しいやり方に切り替えてもらえなくて・・・」
「先代が残した借入金が多くて、なかなか減っていかなくて・・・」
どうやら、今の事業を回すだけで精一杯。
次の事業展開のことを考える余裕など無いように見受けられるのである。
それでも、事業を永続的に発展させていくためには、市況や経営環境の変化を敏感に察知し、世の中のニーズに合わせた事業に少しずつ対応させていく必要があるのではないだろうか。
そのためには、新製品や新サービスの開発をはじめとした、新事業展開を意識的に進める必要がある。
既存事業で必要な収益を上げつつ、プラスアルファの仕事として新事業展開の先手を打っていくことは、後継社長にとっても大きな負担になることだろう。
しかも、そうした新事業展開を検討するには、まず市場機会やチャンスを見出す必要があるが、この市場機会を見出すのに苦労している後継社長が多いのが実際である。
右肩上がりの高度成長期であれば、いろいろなモノの需要が増え、製品の市場規模も膨らんでいくだろう。
また、そうした経営環境下では、多くの市場機会を見出すことができるだろう。
しかし現代の日本では、市場縮小が進む成熟経済である。
それでも何かしらの事業機会を見出し、対応していく必要がある。
では、どのようにして事業機会を見出せば良いだろうか?
SWOT分析やPEST分析、3C分析?
緻密な市場規模動態の分析?
経営学では様々な市場分析手法があるが、それらを行うのはもっと後の段階で良いのではと私は思う。
それよりも、後継者たちにまず行って頂きたいことは「自分が将来やりたい事業」を明確に描くことである。
実際に佐原が後継者とともに描いたものでは次のような例がある。
製造業A社
「今は製造業であるが、いずれは何かサービス業をやってみたい。」
菓子製造業B社
「現状は相手先ブランドのOEM生産で売上規模を拡大しているが、今後は自社ブランド製品を開発したり、コト消費として体験型のフルーツ摘み取り園を運営したい!」
食品加工業C社
「今は食品の材料を加工している下請製造的な事業であるが、今後は材料加工から製品化までを一貫して自社で手掛け、自社の小売店を起ち上げて販売したい!」
一口に後継者の「自分が将来やりたい事業」といっても、なんでもかんでも挙げているわけではなく、自社の不動産や製造ノウハウなどの強みを織り込んで発想していることがほとんどである。
時には、後継者の口から既存事業と全くといってよいほど関連性の無い「突拍子も無い新事業」の案が出されることがあるが、それはそれで良いのではないだろうか。
なぜかというと・・・
新事業展開などの願望を明確に描き、紙に書き残しておくと、ある日思いがけないところからそれに関連する有益な情報が舞い込んでくることもある。
あるいは、その事業に必要なヒントや人脈、情報などが目の前をパッと一瞬通りがかったり。
その一瞬を捉えて手を伸ばし、掴みにいけるかどうかは、先の「自分が将来やりたい事業」を明確に描けているか否かで判断が変わってくるのである。