「CEOとは何か」と尋ねられると、もちろん「チーフ・エグゼクティブ・オフィサーの略で、最高経営責任者のことでしょ」と誰もが口をそろえて言います。しかし日本ハムでは2022年度、コーポレートアンバサダーとして新庄剛志氏をCEOに起用しました。
ここで言うCEOとはチーフ・エンターテイメント・オフィサーの略称だそうです。
同社は自社商品や北海道産の食材を取り扱うECサイト「ミートフル」を4月に立ち上げ、メーカーでありながら卸を通さず直接消費者にビジネスを展開します。
売上は「エンタメ事業」「ウェルネス事業」「エシカル事業」という3事業で25年度単独黒字化、30年度までに売上高100億円達成を目指すそうです。
ここで重要なのは会社経営のセオリーが時代とともに変わってきている事に気づく事です。
経営者の仕事のひとつは世の中の情報をキャッチして自社の方針を決定することですが、今回の日本ハムは直接消費者に販売するという「中飛ばし」や、「新庄剛志の起用」という奇策で常識をぶっ壊しました。
この作戦が吉と出るかは分かりませんが社会常識に一石を投じたことは間違いありません。
私も仕事柄、中小企業の経営者と未来戦略を話す機会がありますが、多くの経営者は「業界の常識」というベールをかぶっており外の世界が見えにくくなっています。
このベールは「これまでの業界常識」であり、「あたりまえ」でした。しかし業界の外にいる我々コンサルタントからは「今後もそれでいいの?」と首をかしげることが多々あります。
最近聞いた話です。「陶磁器業界」の常識ですと、陶器は900度程度で焼き吸水性があり割れやすい。
磁器は1300度くらいの高温で焼いており、なめらかな質感に仕上がり、丈夫で割れにくいため、磁器の方が価値があるようです。
しかしゼロカーボンの観点を持つ現代の消費者からは磁器より陶器の方が環境的にも価値があり、そもそも食器に焼物を使う必要もないという考え方も存在します。
このようにどの業界常識も新たな価値観を持つ消費者の前では意味を持ちません。
これからの消費者が、どんなライフスタイルに興味を持ち、どんな付加価値を欲しているのか。陶磁器業界のベールを脱いで見極めなければなりません。
もうひとつは「旅行業界」の話です。
旅行業の仕事は旅行者のニーズに合わせたプランを用意し、安全に旅を実現させ楽しい思い出をつくるサービス業です。
売り方も顧客ニーズに合わせ店舗型からEC販売へと進化しています。
また国もGO to TRAVELなどを準備しながら観光業界を応援しており、経営者層もコロナが収まればいずれ顧客が戻ってくると信じています。
そこには「みんな旅行が好き」という前提が横たわっています。
しかし最近「旅行に行きたくない」という人の話を聞きました。彼にとって旅行は「時間とお金のコストが大きすぎる娯楽」と言っています。彼は車も所有していません。
つまり合理的な生き方を志向する新種の人類です。その新種が増えた場合、旅行業界はどんな手を打つのでしょうか。
このように新時代の多様なユーザーニーズを過去のベール越しに見極めようとしている経営者層も多く、我々コンサルタントには、時にそのベールを剥がしていただく事も必要とされています。
そしてどんな未来をアシストできるのか。まさにコンサルタントの質が問われ、私たち自身の業界常識も見直す時期が来ているようです。