中小企業が競争の波に飲まれず生き残るには、価格やスピードだけで戦う土俵ではなく、異なる土俵を見つけることが肝心です。
そして、勝ち筋を見つけたら「それを守り続ける仕組み」を整える、と同時に「また新しい土俵を探し続ける」こと。
そのカギを握るのが、少数の“異端人材”です。
これまで多くの企業を見てきて感じるのは、5年・10年先も成長していきそうな会社には共通点があるということ。
それは単年の売上や利益ではなく、他社と同じ土俵で戦っていないこと。
つまり、競争相手が少なく、イノベーティブな商品やサービスを常に模索し、開発し、提供し続けているのです。
■ 優位性を「続ける」ための3つの形態
優位性を築いても、それを持続することは簡単ではありません。
多くの事例を分析すると、持続できている企業は大きく3つに分類できます。
① 強烈なリーダーシップ型
経営者が常識にとらわれず、新しい挑戦をどんどんやり抜くタイプです。
創業社長によく見られるケースです。
小規模企業では社長の強烈なリーダーシップでうまく回りますが、従業員数が多くなると「社長だけが勝手にやっている」状態になるリスクが高くなります。
組織全体でビジョンを共有し、共感を広げる仕組みが必要ではありますが、そこで頓挫することがよくあります。
② プロセスのスリム化・外注化型
DXや設備投資で自動化したり、外注・協力企業をうまく活用して、付加価値を生まない社内業務を極力減らします。
それにより浮いたリソースを事業開発や商品開発、マーケティングなど、競争優位につながる領域に集中投下します。
これは製造業だけに限らず、IT、物流、サービス業でも行われています。
③ 中核機能の分離型
「安定・標準化」を求められる領域(≒製造業の現場)と、「創造・革新」を求められる領域(≒設計・開発・マーケティング部門)を完全に切り分け、それぞれ異なる評価基準・組織文化で運営します。
理由は、両者は求められる思考やスピード感が異なるからです。
製造業の現場では、「コツコツ、地道に、指示通りに、毎日同じ品質で作ること」が求められますが、それは「創造・革新」とは真逆の概念、一つの組織に混在させることはかなりの困難を伴います。
そして、どちらかというと創造性・革新性が薄れてしまうことが多いのです。
■ 異端人材を守る「組織的な枠」づくり
創造・革新を生むのは、ほとんどの場合、少数の「異端人材」です。
しかし、(製造業の現場をイメージするとわかりやすいですが)多数派の文化と異なる働き方や価値観を持つ彼らは、評価されにくく、孤立しやすいという現実があります。
2030年以降を見据えるなら、こうした異端人材を守り、創造的な成果を最大化する仕組みが必要です。
事例1:社内唯一のシステム管理者
ある製造業では、生産管理や販売管理を一手に担うキーパーソンがいましたが、残業も休日出勤も少ないため、他の従業員(管理者を含む)からは「あいつは楽をしている」と見られ、正当な評価を受けていませんでした。
代わりの人材はおらず、重要度が高い業務のはずなのに報われない典型例です。
この会社では後に、専門職評価制度を導入し、管理職とは別の昇進ルートを整備しました。
事例2:サービス業のデータ分析担当
ある小売チェーンで、全店舗の売上分析や顧客データ活用を担当する人材がいました。
現場から離れて数字と格闘するため、店舗スタッフからは「現場の苦労を知らない」と距離を置かれていました。
現実は、彼の分析に基づくプロモーション施策で利益を伸ばしていたため、後に本社直轄の専門チームを新設し、権限と評価基準を明確化しました。
事例3:クリエイティブ職の保護
ある広告制作会社では、営業部門の納期・コスト優先の文化(雰囲気)に押され、デザイナーが創造性を発揮しにくくなっていました。
そこで制作部門を独立予算制に移行し、案件選定権を持たせることで、クオリティと独自性を担保しました。
結果、ブランド価値の向上に直結する案件が増加しました。
中小企業が将来にわたって成長を続けるには、同じ土俵で戦わないこと、そして優位性を持続させるための組織設計が不可欠です。
特に、革新を生む「異端人材」を守る制度や枠組みが、業種を問わず必要不可欠です。
製造業であれ、サービス業であれ、現場(今)の安定と事業(将来)の革新のバランスをどう取るかが、これからの生き残り戦略の核心になります。
10年後に「あの時、この枠組みをつくっておいて良かった」と言えるよう、今から準備を始めたいものです。