「飲食店営業開始につき」
先日、当事務所へとある相談が舞い込んできた。
相談者は本人自身ではなく、一級建築士の先生。
内容は、相談者が手掛けている飲食店が近々オープン予定で、駐車場不足を解消すべく、隣接地の農地を転用したいという。
このような相談は珍しいものではなく、農地が多い尾張地域では農地転用を希望する相談者は多い。
ただ、自分の所有地だから何でもできる筈だという勘違いも起きやすい。
このような相談では、行政手続きに関する法的ハードルの存在を見極め、フィルターにかける必要がある。
転用予定の農地の大きさは勿論のこと、種類、所在地、その所在地は市街化区域か市街化調整区域か、登記上の地目はどうなっているか、土地改良区内か、隣接地の状況はどうか等である。
今回、事前に情報を相談者から聞き出し、簡易的に説明をしたのだが、相談者から出た言葉は「ペナルティ覚悟で実行した場合、そのペナルティは確実に営業主へ科されるのか」という更なる質問だった。
「ペナルティと営業との比較衡量」
いうまでもなく、飲食店を営むには食品衛生法及び条例の基準に適合し、原則、都道府県知事の許可を受けなければならない(食品衛生法第55条)。
万が一、無免許で営業開始をした場合、営業者は二年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処せられる(同法第82条第1項)。
ペナルティは懲役刑又は罰金刑なので決して軽くはない。
同法違反として刑に処せられれば、営業主は二年間許可を受けることは出来ない(所謂、欠格要件に該当)こととなる(同法第55条第2項)。
本件は、食品衛生法における相談ではないものの、飲食店を営業するために必要な駐車場の建設に伴う農地転用に関するものであった。
特に法の適用として問題となったのは、特定都市河川浸水被害対策法だった。
ここでは詳細は省略するが、転用予定地が特定都市河川流域の対象地である場合、原則、都道府県知事の雨水浸透阻害行為許可を受けなければならないが、許可を受けずして駐車場建設を行えば、当然ペナルティを受ける。
「営業主や相談者らのモラル」
営業主や相談者は、営業開始を最優先としペナルティは覚悟の上という。
そんな人いるのかと訝しがる気持ちも沸いてくるが、事実なのである。
そこまでしたい事情が営業主にはあるのだと考えられ、本件の場合、1週間後にでもオープンできる、建物投資、設備投資、人的投資等、ほぼ100%仕上がっている状況。
この事情により、モラルはペナルティと共に軽んじられ、法令違反へと突き進む。
2005年に耐震構造計算を偽造し、建築基準法改正のきっかけにもなった姉歯事件を思い出さずにはいられない。
法律は人が作るが、その立法や改正のきっかけになるのも人、先の姉歯事件は正にその典型例。
その人の行動やモラルの低下は、業界の規制にもつながる。
相談者の先生へ「いくら依頼者だといっても、法令違反をしないよう手続きをきちんと済ませることを強く説明し、出来ないことであればハッキリとNOと伝えることも、依頼者の利益を守るためには必要ではないでしょうか?」と伝えたのは言うまでもない。
それが、有資格者としてのモラルとペナルティとの比較衡量である。