中国など新興諸国のメーカーは初めは日本の技術を模倣して安価な製品を生産していましたが、現在では日本のメーカーを凌駕する製品を開発するまでに進歩してきております。
消費財の分野においては衣食住に必要なものは既に世の中にある状況です。同じような製品なら安いほうがいい訳で、多くの日本企業が海外企業との価格競争に見舞われ利益減少、さらには事業撤退に追い込まれています。そのような状況で消費者が価値を認める高い付加価値の製品アイデア創出の手法として注目されているのが「デザイン思考」という方法です。
従来、「シーズ志向」と「ニーズ志向」の製品アイデア創出の手法が知られていました。「シーズ志向」とは、開発者(作る側の人間)が、その製品の利用者側の自明の便益を実現する製品を開発するというものです。20世紀初め米国のフォード社が世界で初めてコンベヤー式の流れ生産により自動車を生産し、それまで高価なため一部の裕福な人しか購入できなかった自動車を当時の一般的な労働者の4か月分の給与レベルの価格で販売し、当時は1車種のみ色も黒一色でしたが、十数年で1800万台を販売したそうです。
それからおよそ20年後、多くの米国民は自動車を所有するまでになりました。その時代にフォード社に対抗してGM社がとった方法が「ニーズ志向」と言われています。自動車のユーザーにはさまざまな立場や生活のタイプの人がいます。GM社はそれらの顧客に欲しい自動車のデザインやスペックを尋ねることで、ファミリー、クーペ、セダンといような現在の車種分類に繋がるバリエーションをそろえる戦略で販売を伸ばしました。これを「ニーズ志向」の製品企画といいます。一方当時フォード社は自社の単一車種戦略にこだわったため不振にあえぎ倒産の危機まで追い込まれたそうです。
「シーズ志向」や「ニーズ志向」は、モノがないあるいは不足していた時代には有効な手法でした。消費者が欲しいものはまだ無かったり、不足していたのですから。ところが、現在のようにモノがあふれている時代、「どんなものが欲しいですか」と消費者に聞いても具体的には消費者自身にもわかりません。そんな時代に消費者に欲しくなる製品のアイデアを創出する手法として注目されているのが「デザイン思考」というものです。これは、デザイナーや芸術家が作品を制作するときの思考方法と同じであることからこう呼ばれているものですが、ユーザーの気持ちを理解し、ユーザーの感動を呼びおこす製品のアイデアを考え出そうというものです。その手法は次のように説明されています。
①観察・共同化
想定するユーザー像を具体的にイメージします。性別、職業、年代、地域、既未婚、子供の有無、所得額、趣味、等々。そのユーザーがどんなこと、どんな時、どんな場面などで感動するのか理解します。
②概念化・表出化
その理解にもとづき、具体的な感動、たとえば、美しい、おいしい、面白い、びっくりする、ゆったりする、楽な、安心できる、等々を与える製品アイデアを考えます。
③形式知の体系化
考えたアイデアのプロトタイプ(試作品)を作り、実際に想定したユーザーに使ってもらいテスト、検証を行います。検証結果、想定と違うならばそれをフィードバックして製品改良を行います。ある程度完成した時点で量産販売し、その後もフィードバック改良を継続します。
④形式知から暗黙知へ
販売当初は一部の珍しもの好き的な利用者から徐々に拡大し、多くの人たちが愛用する当り前の製品になっていきます。SNSなどによる評判の拡散でそのスピードは速いことが重要です。
これにより、新製品によるイノベーションが達成されることになります。
最近のヒット商品の多くは「デザイン思考」によりユーザーの感動を創出したものが多くなっています。この考え方は、大企業でも、中小企業でも行えるものであり、分野は問わないものです。ものづくりメーカーだけでなく、飲食、サービスなどの業種にも適用できるものです。多くの企業のみなさんがデザイン思考によりお客様へ新たな感動を届けられればと考えます。
最後に、従来の「シーズ志向」、「ニーズ志向」が役立たずになったわけではありません。生産財の分野では多くの場合これらの考え方は有効であることを付け加えさせていただきます。