現在は不確実な時代、ＶＵＣＡ（※）の時代と言われています。
そしてモノが溢れている時代にあっては、企業が競争に打ち勝つためには、お客様の感動を呼び起こす製品、サービスが必要です。
しかし、そのような製品、サービスのアイデアはどのようにしたら思いつくのでしょうか。
才能のある人しか思いつかないのでしょうか。そんなことはありません。
最近話題になっているヒット商品の例には決して特殊な才能からの発想でなく創出、開発されたものが多くあります。
今回はそのような事例を紹介しながらデザイン思考の考え方により、どうやってヒット商品を生み出すのかを解説したいと思います。
デザイン思考については筆者の先の投稿「デザイン思考の製品アイデア創出、2021.11.17」を参照ください。
一つ目の例は「おしゃれマスキングテープ」です。
この商品のメーカーはもともと「ハエトリガミ」そして、「マスキングテープ」の生産をしておりました。
「マスキングテープ」は、建築現場や塗装工場などで使用される産業用資材です。
この会社は、自分の創作にマスキングテープを使っているデザイナーやコラージュ作家のグループの人たちにマスキングテープの商品企画を託しました。
おしゃれなセンスを持ち、おしゃれなマスキングテープに飛びつく人達の気持ちがわかる人たちだったからこそ、お客様の感動を呼び起こす商品を具体化できたわけです。
そして、これをいち早く商品化して上市させ「おしゃれマスキングテープ」という文房具の新たなジャンルを創出しました。まさにデザイン思考の考え方に沿った新製品開発です。
二つ目の例は「ICカードで開くスマートロック」を開発した会社の例です。
近年、オフィスのセキュリティ対策の要求は高まっていますが、従来型のセキュリティロックドアは専用のドアロックやLAN工事、コントロールサーバの設置など非常に高価なものです。
これに対し、通常のドアに後付けでき、SuicaやManacaなどのICカードやスマホをキーにして、クラウドサービスで管理することで非常に便利で安価なスマートロックシステムを開発しました。
この画期的な製品アイデアは大学時代の仲間だった創業者３名が飲み会で思いついたというエピソードがあります。
３人はそれぞれ異なる会社で働く通信、ソフトウエア、メカのエンジニアであり、それぞれ異なる経験、知見持つ３名が、飲み会という自由な発想とリラックスした雰囲気の中だからアイデアを創出できたと考えられます。
そして、彼ら各自の技術を結集し、素早く試作品を製作し、実証実験を行いました。デザイン思考そのもののプロセスを実施したものと言えます。
三つ目の例はプラスチックのように「曲がる木のマスクケース」です。
この会社は元々、フローリングなどの木材の建材を製造しておりました。
しかし低コストの海外製品の市場拡大により建材の製造が窮地に立たされたため、付加価値の高い技術として目を付けたのが、圧縮木材という技術でした。
これは杉などの通常の木材を蒸気圧縮させ、金属並みの硬度やプラスチックのような柔軟性を持たせた素材です。
このような特殊な性質を持った素材を使った商品「曲がる木のマスクケース」はこのコロナ禍のタイミングで木の香りや風合いを持ったマスクケースとして話題になりました。
この商品アイデアは参加者を一般公募したアイデアソンというイベントで創出されたものです。
一般公募ですので参加者性別、年齢、職業はまちまちです。そのようなさまざまな経験や知見を持った初対面の人たちがリラックスして自由な雰囲気の中で対話しながらアイデアを出し合うというのがアイデアソンです。
以上、デザイン思考の考え方による新製品アイデア創出の例を３つ紹介しましたが、３つに共通することは、アイデアは一人で考え出したものではなく、複数の人がリラックスしてご機嫌に対話しながら出てきたものであるという点です。
昔から言われる「三人寄れば文殊の知恵」であります。
飲み会の例がありましたが、飲み会でアイデア出しをするということではなかなか難しいでしょうが、適切な手法によるファシリテーション（司会進行）を行えば、３番目の例のアイデアソンを実施することが可能です。
筆者はその手法の研究、実践をやってきております。ご興味ある方は中小企業支援ナビまでお問合せください。
（※）「Volatility（変動性）」「Uncertainty（不確実性）」「Complexity（複雑性）」「Ambiguity（曖昧性）」の頭文字を並べたもの。
