今回はDX(デジタルトランスフォーメーション)経営の成功のための十分条件について述べたいと思います。2021年5月のコラム「DX(デジタルトランスフォーメーション)経営成功の必要条件、その1」2021年7月のコラム「DX経営を実現する必要条件 その2」の続編です。
経済産業省は2020年12月の「DXレポート2 中間とりまとめ」において、DXの構造を次のように説明しています。
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・デジタイゼーション:アナログ・物理データの単純なデジタルデータ化
・デジタライゼーション:個別業務・プロセスのデジタル化
・デジタルトランスフォーメーション:全社的な業務・プロセスのデジタル化、および顧客起点の価値創造のために事業やビジネスモデルを変革
これら3つの段階は必ずしも順に実施を検討するものではない。
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(出典:DXレポート2 令和2年12月28日 中間取りまとめ(概要)P25/経済産業省 デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会)
前述の2021年5月と7月のコラムはこの「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」の説明にあたります。
すなわち、いままで属人的に行われていた業務の紙などアナログの情報をスキャンやインプットによりデジタル化しただけが「デジタイゼーション」です。
これだけでは、業務の効率化は達成が難しいことが多く、業務プロセスの暗黙知的なところや、定義が不明確なところを、形式知化、明確化し、客観的にロジック化してアプリケーションプログラムのロジックに落とし込むことが「デジタライゼーション」です。
それでは「デジタルトランスフォーメーション(DX)」ですが、「全社的な業務・プロセスのデジタル化、および顧客起点の価値創造のために事業やビジネスモデルを変革」するということはすなわち、経営戦略そのものであるということです。
経営戦略の策定については、これまでさまざまな研究や成果があり、DXであるから従来の戦略策定の考え方、手法が異なるということではありません。
それは内部外部の経営環境を把握、分析して、自社の強み弱みと外部の脅威と機会を洗い出し顧客提供価値の方向性、手段を案出するというものです。
その場合、事業における価値創造プロセス(バリューチェーン)や利害関係者の競争関係、自社の保有資源の配分を総合的に勘案しなければならないことは基本であると考えます。
その基本を外すことなく、デジタル技術を使い、業務・プロセスの変革や事業やビジネスの変革を達成することがDXの意味です。
つまりDXの検討のためにはデジタル技術の知識が必須であるわけですから、それを検討するメンバーがそれを理解していなければなりません。
自社の経営戦略策定を外部のITベンダーに丸投げする社長はいないでしょう。ただ、外部のコンサルの支援を受けることはあるかもしれませんが、そのコンサルの提案を腹に落として理解するためのデジタル技術の知識は必要になります。
すなわちデジタルリテラシーが必要であります。リテラシーと言っても一時代前に注目された、EXCELやメールなどのITツールの使用能力ではありません。
それは前提として、IoT、AI、ビッグデータ、5Gなどの新技術をどのように使うと自社の変革につながるのかを見極めるためのリテラシーです。
これらの技術はここ10年くらいで実用化が進んだものです。会社経営を担うベテラン幹部に特に必要なものであり、誰しも学び直し(アンラーニング)が必要な分野です。
いくら立派なDX戦略を策定できてもそれが実施できなければ絵に描いた餅です。
自社の経営資源がいくら妥当であってもその障害要因になりうるものが、変革に対する自社内の抵抗勢力です。
一概には論じられませんが、個人的な抵抗と組織風土的な抵抗が想定されますが、これら抵抗勢力の払拭には、経営者のリーダーシップや社内メンバーの変革の必要性の理解、変革への当事者意識の醸成などの風土改革など、長期的な取り組みが必要な場合もあります。
その取り組みもDX戦略実施策の一つに入れておくことが必要な場合があるでしょう。
まとめますと、DX経営成功のための十分条件とは、事業やビジネスモデルの変革をもたらすDX戦略、その策定のためのデジタルリテラシー、DX戦略実施のための社内の変革意識ということでしょう。