私がパッと思いつく伝統的な経営資源とは「ヒト(人材)」「モノ(物的資産)」「カネ(資金)」ですが、これに加えて情報化、ネットワーク、時間、ブランドなど、デジタル化やグローバル化が進む現代の経営環境を反映した新しい要素が重視されているようです。
今回はその中で最も活用が難しいとされる「ヒト」に注目してみます。
では現代の経営資源としての「ヒト」とは何を指すのでしょう?
かっこよく言えばこういう事ですが、実際の中小企業界隈では全く無理な話です。
現実的には「辞められて困っている!」「募集しても採用できない!」「採用できてもすぐ辞める!」などの声が聞こえてきます。
我々のようなコンサルタント業であっても「人手不足」という彼らの悲痛な叫びが、今では当たり前の挨拶に聞こえ、少し感覚がマヒしているようにさえ感じます。
さて、このような企業から相談されたコンサルタントは、どう対処すれば良いのでしょう?その答えは簡単ではありませんが、全く手に負えない問題でもありません。
その答えを考える前にまず「ヒトはなぜ来ないのか?」について若いヒトを中心に探っていきましょう。
若手社員の退職理由は、時代や働き方のトレンドに応じて変化しています。近年の若手(20代~30代前半)の退職理由として、以下のようなものがトレンドとして挙げられます。
1.キャリアの不透明さ
自分の成長が見えにくい、または会社がキャリア支援を提供していないと感じる。
「このままここで働き続けていいのか」という将来への不安。
2.働きがいの欠如
仕事にやりがいや意義を感じられない。
自分の価値観やビジョンに合わない。
3.待遇への不満
給与が低い、昇給が見込めない。
福利厚生が不十分と感じる。
4.職場環境や人間関係
上司や同僚との関係が良くない。
ハラスメントや過度なプレッシャーが嫌だ。
5.ワークライフバランスの問題
長時間労働や休暇の取りづらさ。
働き方の柔軟性がない。
6.スキルの活かせなさや成長機会の欠如
自分のスキルが十分に活かされていない。
新しいスキルを学ぶ機会が少ない。
7.リモートワークや柔軟な働き方への期待
テレワークやフレックスタイム制度がない、または不十分。
他社の方がより柔軟な働き方を提供している。
8.個人の価値観の変化
お金や出世よりも「自由」や「充実感」を重視する。
家庭やプライベートを優先したい。
9.新しい挑戦への意欲
スタートアップや副業など、新しい分野で挑戦したい。
よりクリエイティブで刺激的な仕事がしたい。
さあどうですか?中小企業の経営者はこのような若者の希望に添えますか?
難しいですよね?
絶対無理ですね!
では採用は諦めますか?
いやいや諦められません!
このような意識データは真実ではありますが、人間の転職心理を刺激するプロモーションです。
つまり若者全員が上記の傾向にある訳はありませんし、データがすべてならば全員大企業に転職しているはずです。
では中小企業としてどうすれば良いのでしょう?
これは先日、愛知県にある従業員20名の製造業の社長から聞いた話です。
その社長はどんなヒトなら採用できるのかターゲットを明確化しました。
その社長が考えるターゲットは、「優良企業では働きたくない若手」です。
具体的には事務能力や対人能力に自信が持てない勉強嫌いですが、いつか成功体験をしてみたいと夢みる若者です。
次にその若者にとって居心地の良い職場を作りたいと社長は語りました。
それは自分の居場所や成長がイメージできるような職場です。
私はこの話を聞いてギョッ!としました。
なぜなら40年前の私がその「優良企業では働きたくない若手」だったからです。
その時の経験は今でも私の人生観に焼き付いています。
販売の方法を一から教えてくれた憧れの先輩、ゴルフや釣りで遊んでくれた先輩、家族の一員として迎えてくれた所長など。そんな環境でしたから、いつか成長した自分を見てほしいと思い頑張ったものでした。
それからすっかり時代は変わりましたが、当時と同じ感覚で若者を育てたい社長がいる事が不思議であり嬉しい気持ちでした。
そこで、そうした若者を引き寄せるにはどうするべきでしょうか?
社長と共に考えました。
一つの例としてはストーリーを伝える採用ページの活用です。
自社が製造業で世の中に与えている影響を、感動的なストーリー形式で伝えるウェブページや動画を作成。
現場の従業員がなぜこの会社で働いているのか、仕事のやりがいを語るインタビュー動画やブログ記事。
自分が成長した歴史を語る先輩など。
現代風にアレンジするならばオーダーメイド職場制度。
例えば、従業員それぞれの生活に合わせたシフト制や、短時間勤務の提案が可能であること。
また自分のアイデアを製品に反映できる仕組みや事例「社員発案で生まれた〇〇製品」などを紹介など。
こうした「工場の日常を見せる」動画配信: TikTokやInstagramを使い、製造現場でのユニークな作業風景や製品ができるまでの過程を短い動画で公開。
楽しそうな雰囲気や精密な技術を伝えるなど、自分の居場所として感じてもらえる取り組みなど。
社長とはすっかり意気投合してお互い元気になりました。
この会社のように大手企業と採用を争うのではなく、中小企業でしか出来ない取り組みに目を向けてみるのも一つのアイデアですね。
こうした中小企業と出会い、社長と一緒に考えることが、これからの私にできる役割でしょうか。